
みなさんこんにちは。エンジニアの竹田です。
2週間前のことになりますが、今年もサンフランシスコでDreamforceが開催されましたね。今年はフレクトから6名が現地参加しました。 私も昔現地でDreamforceを体験したことがありますが、Dreamforceは単なる製品発表会ではなく、みんなで新技術や事例を見て楽しみ未来を語るお祭りの要素が強いと感じました。だから現地でしか味わえない熱気があるわけです。Salesforce社やそのユーザ企業が何に関心を示していて、どういう方向に行こうとしているかを理解するためには、その熱気の中に飛び込むことが一番いいですね。
私は残念ながら今年現地参加していないわけですが、今年は例年に比べて新機能の発表が盛りだくさんで(大部分はAgentforce関連)、youtubeで公開されている講演を聞いてそれら新機能を理解していくだけでもSalesforceが向かっているところが分かります。
さて、それでは本記事では今回発表されたAgentforceの機能の中から、Agentforceの方向性を物語っている大事な機能を見ていきましょう。
AI Agentの3つの要素
ただ、その前に、この図を見てください。

この図は、以前あるAIシステムの提案に際して社内のMさんにお願いして作ってもらった図を少し修正したものです。 この図が示しているのはAI Agent(LLMを使ったチャットベースの業務システム)の大きな構成要素です。
右側の“データ”についてはよく話題に上りますね。RAGなどで実現される部分です。RAGであればVector DB,Embedding Modelなどが話題に上がります。
中央の“アクション”についてもよく話題に上がります。Agentに単にユーザからの問いに回答させるだけでなくて、様々な処理をやらせようというものです。AgentにAPIを呼び出させたり、MCPを使わせたりといったものです。最近だとAnthropicがClaude Skillsを発表していて更なる広がりがでてますね。
左側の“計画”部分についてはあまり話題に上らないかもしれません。推論という単語で語られることもあります。何かというと、Agent自身が何をすべきか最初に計画を作るところです。 たとえばAgentにコードのバグ修正を行わせることを考えましょう。バグ修正をするためにはたとえば次の順番で作業を進めます。
バグの内容の理解→コードの確認→バグの原因と発生個所の特定→バグの修正方針の判断→コードを修正→動作させて修正されたことを確認...
ではこれらの順番をAIにあらかじめそのまま教えておけるかというと、必ずしもそんなことはありません。バグ修正の場合には、もしかしたら修正前にユーザに正しい仕様を確認しなければいけないかもしれないし、バグの種類によっては発生する条件を明確にしなければいけないかもしれず、バグの内容によってすべきことが変わります。 ここではバグ修正を例に出しましたが、一般的にAIに少し複雑なことをさせようとすると、ある程度の作業の進め方の大枠は人間があらかじめ与えるにせよ、AI自身がその枠の中で柔軟に計画していくということが重要になります。 このようなAI自身が作業計画を立てるという部分が図の“計画”です。
(実際、Cursorなどの開発用のAIツールを使うと、最初にAIが計画してその後計画に沿って作業をしていく様子がログとして見えます。Cursorの場合は、計画通りにいかないと計画を見直したりして、とても賢く動いている様子が見えます。)
それでは、この3つの部分に沿ってDreamforceでの発表を見ていきましょう。
データ部分について
さて、まずはデータ部分です。 データ部分については、Intelligent Contextが発表されました。
ここ1年間でのAI Agent界隈におけるデータについての特に大きな話題は、企業が持っているデータをAgentにどう使わせるかという点でした。要はRAGの話題です。 既にDB等のシステム内にある構造化されたデータならばAPIなど経由してAI Agentに読ませればいいわけですが、作業に必要なデータはシステム内にある構造化されたデータだけとは限りません。社内の規定類や手順書など様々な資料が必要です。今まで人がやっていた業務をAIにやらせようとすると、こうしたデータをAIに渡すということが重要になります。
RAGのためにこうした所謂非構造化データを扱うためにVector Databaseを活用することが重要になることが多いですね。ただVector Databaseというものはなかなか使いこなすことが難しい技術です。 Vector Databaseにデータを格納するときには、chunkといわれる単位に分割するわけですが、その分割単位をどうするべきかとか、Vector Seachに期待する意味付けを持った検索をするためにはどのEmbedding Modelをどう適用させるべきとか、それぞれ難しい要素があります。
(仮にVector Databaseでなく別の何かを使ったとしても、そもそも検索というものは本質的に難しいものです。人が与える断片的な検索条件から大量にある資料のうち目当て部分を見つけるには、検索条件への一致をどのように考えるかとか、一致した資料が複数あった場合にどれを優先的に返すべきかなど、常に完全な正解があるとは限らず、それゆえに難しいものなのです) (普段Web検索するときに使うGoogleの技術があまりに優秀な故に、かえってその難しさを実感しづらいのかもしれません)
こうした中出てきたのがIntelligent Contextです。 何をしてくれるかというと、要はPDFなどになっている人が見る既存の資料をVector Database化するときに、LLMを活用して、うまいこと意味のある単位でchunk分けしてくれたり、画像やその配置を考慮して保存したり検索してくれたりするようです。 画像だけでなく表やフローチャートまでLLMを使って認識してくれるということなので、うまく使えばまるで人が資料を読むようにAgentforceが資料を読んで考えてくれるということが実現できそうです。

こちら(https://www.salesforce.com/agentforce/what-is-new/)からKey capabilities を参照すると、Intelligent Contextには次のような特徴があるようです。
- Automated context extraction: Converts complex, unstructured documents into structured, actionable data for Agentforce.
- Low-code configuration: Quickly set up unstructured data pipelines in hours, not days, without extensive engineering effort.
- Multimodal support: Handles PDFs, tables, images, flowcharts, and other diverse content types.
- Seamless integration with Data 360: Create a search index with AI, then activate it everywhere for secure, contextual, enterprise-ready operations.
日本語訳してみると、
- 自動コンテキスト抽出(Automated context extraction): 複雑で非構造的なドキュメントを変換して、Agentforceが活用可能な構造化データにします。
- ローコード設定(Low-code configuration): 大規模なエンジニアリング作業を必要とせず、数日ではなく数時間で非構造データのパイプラインを素早く構築できます。
- マルチモーダル対応(Multimodal support): PDF、表、画像、フローチャートなど、多様なコンテンツ形式に対応します。
- Data 360とのシームレス統合(Seamless integration with Data 360): AIによる検索インデックスを作成し、安全でコンテキストに応じたエンタープライズ運用のために、あらゆる場所で活用できます。
まだ、どこまでできる技術なのかは分かりませんが、RAGの難しいところが簡単にできるととても嬉しいですね。 既にGAされているという情報もあるので、フレクトでも今後検証していきたいと思います。
アクション部分について
アクション部分については、それほど大きな発表はなかったように思えます。 Dreamforceの前にAgentforce3.0の一部として発表したMCP対応についてはこのアクション部分に相当するわけですが、まだGAされていないですね。Dreamforceの発表の中でもいつになるかは明示的になっていなかったと思います。 こちらも期待して待ちましょう。
計画部分について
さて、計画部分が今回特に注目すべきところです。 Agent Scriptというものが発表されました。私はこれまでの箇条書きのようにAgentforceにInstructionを書く形式だとちょっとしんどいし、Agentforceの特徴であるTopic/Actionの判定というシンプルな構造だとできることが限られてくるなと思っていたところでした。 要は今までの仕組みだと計画的にAI Agentに作業をさせるということに限界があるなと。なぜならその仕組みは単に都度TopicとActionを選ぶというだけだからです。
今回のAgent Actionでは今までのシンプル(過ぎる)構造を大きく拡張するものだと思います。 Agent ScriptではAgentが何をすべきかということを条件分岐を交えながら逐次的に記述できるので、どの様な条件だったら何をどのような順番で実行すべきかということを指定できます。 Agent Scriptの中には自然言語でプロンプトも書けるので、プログラム的というだけでなくLLM的な判断も交えた動的な計画もできそうです。
うまく使えば、Agentが何をすべきかということをAgentの役割に応じた一定の範囲内に収めながら、Agent自身にすべきことを計画させるということができそうです。 CursorなどAIによる開発ツールでは何をすべきかをもっと自由度高く計画させますが、Enterprise用途で様々な人に使ってもらうというAgentforceの特徴を考えると、このようなある程度の制約の中で柔軟性を持たせた設計方針は妥当なように思えます。

Agent Scriptについてはもこちら(https://www.salesforce.com/agentforce/what-is-new/)からKey capabilities を参照すると、次のような特徴があるようです。
- More predictable agents: - Agent Script is a new scripting language designed for controlling agents. This human-readable, portable JSON expression language allows teams to define complex agent logic, including conditionals, “if/then” rules, and hand-offs - all with programmatic precision.
- Hybrid Reasoning in the Atlas Reasoning Engine: The Atlas Reasoning Engine is now configurable, enabling teams to balance the inherent creativity of LLMs with the certainty of structured business logic, enabling more predictable and reliable agent behavior.
- Flexible, expanded model choice: Agentforce now supports Google Gemini as a model for the Atlas Reasoning Engine, joining Open AI and Anthropic on Amazon Bedrock to enable even greater choice for what models Agentforce uses to reason and plan.
日本語訳してみると、
- より予測可能なエージェント: Agent Scriptは、エージェントを制御するために設計された新しいスクリプト言語です。人間が読みやすく、ポータブルなJSON表現言語であり、条件分岐や「if/then」ルール、別のエージェント・人への引継ぎ、などを含む複雑なエージェントロジックを、プログラム的な精度で定義することができます。
- Atlas推論エンジンにおけるハイブリッド推論: Atlas 推論エンジンは設定による実現が可能であり、LLM(大規模言語モデル)の持つ創造性と、構造化されたビジネスロジックの確実性のバランスを取ることできるようになりました。これにより、より予測可能で信頼性の高いエージェントの振る舞いを実現します。
- 柔軟で拡張されたモデル選択肢: Agentforceは、Atlas推論エンジンの基盤モデルとしてGoogle Geminiを新たにサポートしました。これにより、OpenAIやAnthropic(Amazon Bedrock上)に加えて、Agentforceが推論と計画に利用できるモデルの選択肢がさらに拡大します。
ふむふむ。期待できそうですね。 2025年の11月GAということなので、間もなく使えるようになりますので、使えるようになったら早速試してみたいところです。
おわりに
今回のDreamforceで発表された機能によって、AgentforceもAI Agentプラットフォームの最前線に(再び)立ったように思います。 エンタープライズ用途を志向しているプラットフォームとして、Agentforceはとても優位な位置にあります。数か月単位で目まぐるしく変わっていくAI業界ですが、他のプラットフォームに負けずに今後も進化を続けてほしいと思います。